人間の直感とその限界
最近のAIブームの影響からか、「人間の直感というのは素晴らしい」という論調がよく見られるようになりました。
確かに「深く考えていないのに、直感で出した答えが意外と当たっている」というのは正しいのですが、
それでも直感には限界があり、あまり直感が正しく働かない領域もあることを認識したほうが良いと思います。
0や1に近い確率の判断は苦手
行動経済学でよく人間が間違う例として、0や1に近い確率の事象を判断するとき、
人間は直感では合理的な判断を下せなくなることが判っています。
例えば、「0.1%の確率で1000万円当たるくじと、0.01%の確率で1億円当たるくじのどちらを選ぶか?」くらいであると、
「どちらも期待値は同じだからどちらを選んでも良い」と判断できるのですが、
さらに確率が下がって、報酬が大きくなる場合、
「0.01%の確率で10億円当たるくじと、0.001%の確率で100億円あたるくじ」の比較になると、
人間は「確率はどちらもほとんど0だから同じ、だったら報酬が大きい方(100億円のくじ)が良い」と考える人が増える傾向があります。
要するに、「ほとんど起きない事象のリスクに対して、人間は直感で正しく判断できない」ということになります。
事故や災害(地震、原発、豪雨)のリスク判断は合理的に
ほとんど起きない事象といえば、交通事故や、地震などの災害、リーマンショックなどの恐慌です。
交通事故や地震や豪雨などの災害は、自分の身に降りかかる確率はかなり小さいですので、
「直感的にたぶん大丈夫でしょ」という考えでいると、間違いを誘発します。
自然災害の他に、リーマンショックが起こる確率も1000年に1度などと言われていますから、
多くの人がリスクを過小評価していました。
そのため適切に対応できていた(=合理的に考えていた)人が少なく、世界経済が混乱しました。
自然システムと人工システムは確率分布が異なる
また、自然と人工的なシステムでは、確率分布が異なることが判っています。
具体的には、「人工的なシステムでは、自然システムに比べて、
平均値から小〜中程度離れた事象が発生する確率が下がり、
平均値から大きく離れた事象が発生する確率が上がる」ということが判っています。
これは、人間の「設計」という行為が、平均値付近の事象に対して最適化するためです。
「設計」が洗練されていくとともに、自然システムから確率分布が離れていきます。
設計時に「想定内」を増やしていくと、「想定外」の被害が大きくなるのは必然と言えます。
現代社会は人間の直感が働きにくくなっている
今の社会は、いろいろなものが「設計」されて「最適化」されていますから、
より人間の直感が働きにくい環境になっていると言えます。
将棋のプロ棋士は、一般人からは並外れて優れた直感を持った猛者たちばかりなのに、何時間も長考することがあります。
これは、棋士自身が自分の直感に限界があることを痛感していて、
「直感ではこの手が良いはずだけど、しっかり先まで読んで考える」ということを実践していることを示します。
一般人の我々こそ、安易に直感に委ねないように注意するべきでしょう。