なぜ「虚業」は稼ぎが良いのか?
なぜ銀行や証券会社、M&Aアドバイザリなど、言ってしまえば
お金や権利の所有権を付け替えるだけの会社は給料が良いのだろうか?
という疑問を長年抱いてきました。
東洋経済による平均年収「全国トップ500社」最新ランキングでは、
トップ2をGCAやM&AキャピタルパートナーズのM&A助言業が占め、
それ以下にも野村ホールディングスや東京海上、三井住友などの金融業が多く並んでいます。
極論を言ってしまうと、金融業は何も生産していませんが、
それなのに給料はかなり良いです(福利厚生等を差し引いて考えてもです)。
海外でも金融業は高給取りですので、これは日本に限ったことではなく、どうやら普遍的な現象といえるでしょう。
なんでだろう、とずっと考えてきました。
教科書や世間では、次のような説明をよく見ます。
- 彼らは大きなリスクを取っている。いつクビになるのかわからない。
- 彼らは大きな責任を負っている。失敗すれば多くの人々が路頭に迷う。
- 彼らは大きな価値を生んでいる。当然給料も高くなる。
本当でしょうか?
1については、生涯年収を比べたとき、
クビになった人の生涯年収が、他業種の平均と比べて低いのだろうか、という点が疑問です。
データが見つからないのだが、あまりそういう話は聞きません。
クビになるまでに結構な額を稼いでいるはずですし、
学歴もそれなりにあるはずなので、
淘汰されたあとも平均以上の給与の会社に再就職しているのではないでしょうか。
ということで、金融業のサラリーマンが背負っているリスクは他業種に比べて高くはないと考えられます。
2はメーカの技術者で製品に欠陥があれば、
製造物責任を取らされ、場合によっては刑事罰にもなります。
法律で罰せられなくとも、製品で事故が起これば、怪我、最悪の場合は人命を失います。
翻って金融業ではインサイダーのようにズルいことをすれば罰せられますが、
ミスした程度では法律には罰せられません。
サブプライムローンを作った人も最悪クビになっただけです。
金融業は何も生産していないがゆえに、
どんなにひどいミスをしても人に怪我をさせることはできません。
これは他の職業に比べてかなり低リスクと言えます。
3はそもそも価値を生んでいるのかどうかが疑問です。
「金融は、それ自体は負の価値(金融なぞ所詮は虚業なのだから)」という論者もいます。
何も生産していないのに、どんな価値を作っているのでしょう?
金融業は余っているところからお金を集めて、
資金需要があるところに再分配しているだけです。
あくまで融資先などの企業が生産を行って初めて価値が生まれます。
(例えば、銀行が何も生産しない会社に融資したところで価値は生まれませんよね)
ということで、教科書的なこれまでの説明では、
金融業が高給取りである理由が説明できません。
このことは長らく私を悩ませていましたが、ある時ひらめきました。
「お金そのものが虚構なのだから、直接虚構を扱うほうが効率が良い。」
モノやサービスを媒介としてお金を得ようとすると、
そのモノやサービスを管理するためのコストがかかります。
何も生産しない金融業は、余計なコストを払わないで済みます。
逆説的に、金融業は何も生産しないからこそ高給取りなのです。